エコロジー


Text01 二酸化炭素排出をおさえる 木質バイオマス利用

地球温暖化対策として最も大切なのは、もちろん化石燃料の使用に伴う二酸化炭素の排出抑制である。そのためには、排出量を抑制するための技術の開発促進を図るとともに、化石燃料の使用量を削減する必要がある。これはもちろん、化石燃料の枯渇を先延ばしにするための措置でもある。

そこで注目されはじめているのが「木質バイオマスのエネルギー利用」だ。森林の二酸化炭素吸収能力だけでなく、森林が貯えているエネルギーそのものが注目されているのだ。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第二次報告書では、燃料として木材を利用することは、最終的に化石燃料の使用を抑制・削減することによる二酸化炭素の削減に最も効果があり、その効果が累積的で永続的であるとしている。つまり二酸化炭素を吸収して成長した木材を燃料として使用すれば二酸化炭素は排出されるが、その排出された二酸化炭素は新たに植林された森林に吸収・固定されるので、単純計算すれば大気中に排出される二酸化炭素の収支はゼロになるのである。

再生産可能な木質バイオマスをエネルギーとして活用することは、生態系の中での資源循環利用であり、地球環境保全のためにも優れているといえる。


Text02 化石燃料から生物燃料 循環型社会実現

バイオマスエネルギーという聞き慣れない言葉に初めて触れたのは、昨年晩秋。福井県今立町の環境学習施設「八ツ杉千年の森」で行われた「森のエネルギー新時代」というセミナー。木質燃料のペレットストーブといろりのあるホールで「21世紀日本の森林エネルギー戦略プログラム」と題して講演したのが、今日の岐阜県立森林文化アカデミー学長、熊崎実筑波大名誉教授だった。

熊崎さんは恵那郡付知町出身。三重大農学部を出て農林省森林科学研究所などに勤めた後、1989(平成元)年から筑波大教授となり、99年春に定年退官した。「久々に岐阜に帰ってみると、山は荒れている。2、30年前に植えたまま手入れされてないから大雨で山が抜ける」。話は、欧米でいかにバイオマス利用が普及しているかに及んだ。

「木材は生きたバイオマス。化石資源は死んだバイオマス。化石燃料が使えないのなら、もともと人類が重要な燃料としてきた生物燃料に帰るのは当然。バイオマス発電で出るCO2は、木が成長する間に貯めこんだのを返しているだけで、CO2に関してはニュートラル。森という地域資源を活用した循環型社会の実現に期待が出来る」米国はオイルショック後の70年代から木質バイオマス発電を始めた。欧州でも近年、温暖化対策でとみに盛ん。

「21世紀はバイオマスの時代」ともいわれている。「日本でも、未利用の木質資源をベースに小規模・分散型の熱電併給が普及する可能性は極めて大きい」と、熊崎さん。「当面有望なのは木質ペレット燃料による石油暖房の代替。中山間地の公共施設や施設園芸、農産加工などに熱電併給ができるし、計画的間伐と一体化すれば熱より電力の販売を重視したやや規模の大きい発電所もできる。建築廃材などあまりクリーンでない木質系廃棄物の場合、大型火力発電所で化石燃料と混焼するのは難しくない」今立町で初めてお会いした熊崎さんに、今春、森林文化アカデミーで再会した。

早速、バイオマスの話の続きを聞いた。「欧州は熱供給中心だが、発電だけなら蒸気タービンよりガス化した方が効率はいい。ただ、天然ガスと違ってバイオマスは浄化が必要。その浄化とガス化の技術は米国でもまだ完成していない。ガス化の長い経験があるデンマークでは成功しているが、多分に職人的で難しいものがある。そこをどうするかが問題」ともあれ、森林資源は日本、特に岐阜は豊富。難しい技術も職人技も、日本人が劣るわけでもなさそう。まだ、始まっていないだけなのだ。

メモ

木質ペレット 米国で開発された、製材の木くずなどを固めた成形燃料。直径7ミリ、長さ15ミリほどの円柱状。取り扱いやすく、手も汚れない。米国で約35万世帯が暖房に愛用。スイッチを入れるだけなので薪ストーブより扱いが簡単。熱効率がよく快適で、給湯もできる。スウェーデンが米国に次ぐ生産国。国内では現在、ペレットストーブは両国から輸入。ペレット生産は2例だけだが、今後は国内でも有力な自然エネルギーとして期待が高まっている。

取材ノート

福井県今立町は越前和紙の古里。紙の神をまつる岡太(もと)神社があり、美濃紙と同様、正倉院に献上した和紙が残る。千年前から今を見つめ、千年先の未来に続く町づくりビジョンに基づいて町森林学習センター「エコ・ヴィレッジ八ツ杉千年の森」が開設された。太陽光発電や木炭自動車「千年の森号」、ペレットストーブがあり、木炭による合併浄化槽高度水処理実験も行われていた。歴史をふまえて未来を築こうという確かさに感じ入った。


Text03 木質バイオマスって?

バイオマスという言葉自体が多義的で捕まえにくいところがある。さまざまな定義があるのは当然だろう。その中で『バイオマスエネルギー(省エネルギーセンター刊)』の著者 本田淳祐氏は「太陽エネルギーを貯えた様々な生物体の総称」としているが、この定義はバイオマスの本質をついていると思う。葉緑素を持つ植物は、燦々と降り注ぐ太陽光の中で、大気中の二酸化炭素と、根から吸い上げた水を使って光合成を行い、糖類、セルロース、リグニンなどの有機物を生産する。

生態学で言うバイオマスは「特定の群落に、ある時点で存在する有機物の総量(乾物量で表示)」を指していて、「現存量」とか「生物生体量」といった日本語があてられる。ところで、バイオマスに太陽エネルギーが貯め込まれている以上、これを燃焼させれば放熱が起きる。つまり光合成で作られた、炭素の多い有機物が、燃焼により酸化・分解されて多量のエネルギーを放出するのである。その限りでバイオマスとは「エネルギー生産に使われる生物体」であるという定義も可能であろう。

最近出版されたアメリカの林業用語辞典は、バイオマスを「樹木の全部またはその一部を通常はチップにして得られる木質産物」と規定し、「エネルギー生産に向けられる枝条、梢端、市場価値の無い幹などを含む」としている。林業関係者が木質バイオマスのエネルギー利用というときには、この定義が一番ピッタリしている。林地残材のほか、製材工場などの残廃材や産業廃棄物とされる建築端材・解体材なども木質バイオマスに含まれよう。

他方、古紙のように、木材以外の物質を加えて高度に加工したものは含まない。ただ、パルプ工場の廃液はバイオマスとして取り扱われることが多いようである。燃料としてのバイオマスについては、化石燃料と対比する意味で「生きた燃料 biofuel」と呼ばれることがある。「生物燃料」といってもいい。

石油や石炭は、太古の昔に生育していた樹木や藻類が地中に埋もれて化石化したものだ。また、現在たっている樹木を切り倒して同じような条件のもとに何百万年も放置すれば化石燃料になるだろう。両者がともに燃料として有用なのは、太古または数十年前に太陽が放射したエネルギーをしっかり貯め込んでいるからである。


Text04 地球温暖化と木質バイオマス

周知のことではあるが、地球温暖化のおさらいから始めたい。地球に届いた日射エネルギーの七割は、地表に吸収され、熱に変わる。さらに、加熱された地表から放射される赤外線が大気中にある「温室効果ガス」に吸収され、その一部が地表に放射されることで地表の温度が上がる。これが「温室効果」であり、その作用によって地球の気温は保たれている。つまり温室劫果ガスは温室のガラスのように、太陽の熱は通し、中の熱は通さない役割をしている訳だ。

しかし、人間の様々な活動に伴って大気中の温室効果ガス濃度が高まるにしたがって、温室効果が強まり、気温が上昇している。これが「地球温暖化」である。この地球温暖化に伴う海面上昇や農業、自然生態系の変動が、私たちの生活へ悪影響を与えることが懸念されている。

温室効果ガスには様々なものがあるが、温暖化への寄与率が高く特に問題にされているのは二酸化炭素だ。二酸化炭素濃度は、産業革命以前は280ppm程度であったが、現在では358ppmに違している。このままいけば、来世紀の半ばには産業革命以前の倍にまでなるといわれている。この二酸化炭素濃度増加のもっとも大きな原因は、石油や石炭などの化石燃料の燃焼だ。日本の化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出量は、世界第4位である。

気候変動枠組条約は大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的として、地球温暖化に関する国際的取り組みについて枠組みを設定する条約である。1995年にベルリンで開催された第一回条約締約国会議において、2000年以降に締約国が取るべき措置の検討を進めることが合意され、1997年12月には、この結論をまとめるための第3回条約締約国会議が京都で開催された。

この会議で採択された議定書(京都議定書)では、法的拘束力のある温室効果ガス削減の目標が定められている。この目標は各国で異なるが、その削減目標は1990年を基準年として、2008年から2012年までに日本は6パーセント、アメリカ合衆国は7パーセント、EUは8パーセント、先進国全体で5.2パーセントとなっている。またこの議定書では、温室効果ガスの排出量は、1990年以降に植林された森林の温室効果ガス吸収量を差し引いて取り扱うこととなっており、二酸化炭素の吸収源としての森林の機能が改めてクローズアッブされたことは記憶に新しい。


Text05 世界の木質バイオマス活用状況

現在、光合成によって生産されているバイオマス量をエネルギー換算すると、地球全体で2740クワッズ(1クワッドは1億7200万バレルの石油と同じエネルギー量)であるといわれている。これは、世界中で消費されているエネルギー量の約8.4倍である。これだけのエネルギー量が、再生産可能なのだ。しかし、そのうちで活用されているのは191,8クワッズでしかない。もちろんこの中には、開発途上国が再生産を前提とせずに利用しているものも入っているので、再生産可能なエネルギーとしてバイオマスを利用している量は、ほんのわずかである。

そんな中、EUや北米では、木質バイオマスをエネルギーとして取り入れることに熱心だ。EUでは、水力、風力、バイオマス、太陽光など再生産可能なエネルギー利用の促進を積極的にすすめているが、この中でもバイオマスのエネルギー利用がもっとも主要な位置を占めるようになってきている。このバイオマス資源の素材の中心も、麦わらなどの農産廃物から木材に移りつつある。

また、バイオマスを中心とした再生産可能なエネルギーで約1億トンの二酸化炭素削減を目指しており二酸化炭素削減のための研究開発予算でもトップに立っているという。スウェーデンを例に取ると、政府のエネルギー政策として再生可能なエネルギー源の効率的な利用にカを入れており、木質バイオマス燃料による熱電併給システム、特に地域暖房への熱供給システムの整備を積極的に推進している。

木質バイオマス利用の場合はエネルギー税や二酸化炭素税が免除されており、スウェーデンの一次エネルギー生産の約18パーセントが木質バイオマスによるものである。スウェーデンには、木材をチップにして、それを燃やす蒸気ボイラーで地域暖房や発電をしている施設が30力所以上ある。またアメリカ合衆国では、燃料用木材や製材工場などから出た廃材などを燃料として使用しているバイオマス発電所が550近く稼動しており、全体で約7000メガワットの発電能力がある。

それぞれの発電能力は小さく、平均出力は20メガワットであるが、これらの発電所は、アメリカ合衆国の全電力の1パーセント(産業用電力では8パーセント)をまかなっている。2010年までには約2倍にする計画であるという。現在の日本での木質バイオマスの利用は、製材所が製材時の副産物を用いて発電を行っている事例が数力所あるにすぎない。木質バイオマスの使用量は、先進国各国と比較しても、一桁も二桁もちがうのが現状である。

この現状には、各国と比軟して木材搬出コストの違いや税制の未整備、電気の電力会社の需要独占など様々な要因があげられる。しかし、地球温暖化抑制策としての二酸化炭素税の導入や地域熱供給事業の促進は必至であるといわれており、木質バイオマスのエネルギー利用は、今後さらに検討されていく必要がある。